B型肝炎訴訟中に本人が死亡した場合
B型肝炎給付金を請求する訴訟の途中で、原告である患者本人が死亡してしまったとき、どうするかについて解説します。
原告が死亡すると訴訟は中断され、相続人からの受継申立によって再開します。
1. B型肝炎訴訟中に本人が死亡した場合
B型肝炎訴訟の途中で本人が死亡してしまった場合、訴訟は一旦ストップします。これはB型肝炎訴訟だからというわけではなく、すべての訴訟で共通です。
民事訴訟法第124条(訴訟手続の中断及び受継)
次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。(以下省略)
一 当事者の死亡
(以下省略)
訴訟の当事者である原告が死亡していなくなったわけですから、そのまま訴訟手続きを継続するわけにはいかないということです。そのまま訴訟を続けられてしまうと、何の主張も反論もできないまま負けてしまうかもしれません。それではさすがに不公平ですし、そのままB型肝炎給付金がもらえなくなると遺族にも不利益となります。そのため、法律でも訴訟をしている本人が死亡したときは訴訟を中断するように決められているのです。
2. B型肝炎訴訟を再開させるための手続き
当事者の死亡によって訴訟手続きが中断された後はどうなるのでしょうか?
中断したということはどうにかして再開する必要があるわけですが、誰がどうやって再開させるか?ということが問題になります。
当事者がいない状態のまま訴訟を再開させるわけにはいかないので、誰かが代わりに当事者の席に座る必要があります。死亡した本人に代わって原告の立場を引き継ぐ人が必要になるわけです。では、原告の立場を引き継ぐのは誰でしょうか?
一般的な法律の話として、死んだ人の財産や権利義務を引き継ぐのは相続人です。訴訟というのは権利や義務が有るか無いかを争うものなので、訴訟当事者としての立場も相続人が引き継ぐことになります。患者本人の死亡後に相続人からB型肝炎給付金を請求できることを考えても、当然の結論と言えます。
先程見ていただいた条文の続きの部分でも、相続人が引き継ぐようにと定めてあります。
民事訴訟法第124条(訴訟手続の中断及び受継)
次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
一 当事者の死亡
相続人、相続財産管理人その他法令により訴訟を続行すべき者
(以下省略)
相続人が訴訟を引き継いで再開させるための手続きを、条文の表現をとって受継申立といいます。
3. 訴訟が中断する理由
訴訟の途中で原告が死亡すると訴訟手続きが中断し、相続人が引き継ぐことは分かりました。
ただ、それなら原告が死亡するのと同時に、自動的に相続人が原告を引き継げばいいと思う人もいるのではないでしょうか?なぜ、わざわざ一旦中断などという面倒なことをして時間をかけるのでしょうか?裁判所が怠けるためでしょうか?
ただでさえ、B型肝炎給付金の手続きには時間がかかるのに、また訴訟を引き延ばすのはいったい何のためなのかと不満に思うかもしれません。
しかし、ここで一旦訴訟を中断させるのにはちゃんとした理由があります。
それは、相続手続きがどうなるかを待つためです。
B型肝炎給付金以外にも色々な財産があったり、相続人が複数いたりすると、遺産分割協議をしてどの相続人がどの財産を相続するかを決めなければなりません。遺言書がある場合は、遺言の内容を相続人みんなで確認したりといったことも必要になるでしょう。
また、死亡した原告にB型肝炎給付金よりも大きな借金がある場合は、相続してもマイナスになるので相続放棄した方がいいということになります。
そういった諸々の相続手続きが落ち着くまで、誰が相続人として訴訟を引き継ぐのか決められないケースも多いので、原告が死亡したら一旦は自動的に中断することにして、その後相続人が決まってから再開するという決まりになっているのです。
4. いつ訴訟を再開できるか
原告の死亡によって中断した訴訟は、相続人が再開させたいと思ったらすぐに再開できるのでしょうか?
実はそれについても規定があり、相続人の気持ちひとつですぐに再開できるというわけではありません。
民事訴訟法第124条(訴訟手続の中断及び受継)
次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
一 当事者の死亡
相続人、相続財産管理人その他法令により訴訟を続行すべき者
(途中省略)
第三項 第一項第一号に掲げる事由がある場合においても、相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない。
(以下省略)
先程の条文の第三項で「相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない」と定められています。「相続の放棄をすることができる間」というのは、相続放棄するかどうかまだ分からない状態ということです。相続放棄をすると相続人ではなくなるので、当然のことながら訴訟を引き継ぐこともできなくなります。
つまり、この規定を平たく言うと、相続するのか相続放棄するのかハッキリするまでは訴訟を引き継げませんということです。
では、「相続の放棄をすることができる間」というのは具体的にはいつまでなのでしょうか。これは民法に定められています。
民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
(以下省略)
これは平たく言うと、相続放棄するなら「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にやってねということです。この期間を延ばす手続きもしないまま3ヶ月を過ぎると、もう相続放棄という選択肢はなくなります。「自己のために相続の開始があったことを知った時から」というのは、ほとんどの場合で死亡日からとなります。
つまり、原告の死亡日から3ヶ月経過するまでは訴訟を再開させることはできません。3ヶ月経ってから、相続人が受継申立をして訴訟を再開させることになります。
5. 提訴前に本人が死亡していた場合
受継申立をするかどうか紛らわしいケースをご紹介しておきます。
原告が提訴前に死亡していたというケースです。
B型肝炎給付金の手続きを弁護士に依頼していて、弁護士が提訴する直前に原告が死亡していた場合や死亡したことを弁護士に連絡し忘れていた場合など、実際には死亡しているにも関わらず、死亡した本人を原告として提訴してしまっていることがあります。
すでに提訴しているため、訴訟が始まっていて本人が死亡しているという状態なので、訴訟中の死亡と同じように思えます。
しかし、訴訟が始まる前に本人は死亡していたわけで、訴訟中の死亡ではありません。この場合は、すでに存在しない人を原告として提訴していたことになるので、訴訟自体が有効に始まっていたことになりません。
まず、訴訟を取り下げて、相続人を原告として改めて提訴することになります。
6. まとめ
B型肝炎訴訟の途中で本人が死亡してしまった場合、一旦訴訟は中断し、死亡日から3ヶ月経ってから相続人が訴訟を引き継いで、再開することになります。
普通に訴訟手続きをするだけでも面倒なのに、途中で相続人に引き継いだりということがあると、ますます面倒な手続きが増えていきます。
しかし、弁護士に依頼していれば今回の記事にあるようなことは全て弁護士が判断して手続きしてくれます。死亡したときは必ず弁護士に連絡する必要がありますが、あとは指定された書類を弁護士に渡すだけですので、弁護士に依頼する人はこの記事は全部忘れていただいても大丈夫です。