本人死亡の場合のB型肝炎給付金請求

B型肝炎訴訟は、患者本人が死亡していても相続人から給付金請求することができます。
給付金対象の方が肝疾患で死亡した場合、給付金は3600万円です。
誰が相続人になるのか、相続人になった人が何をすればいいのか、などの問題はまとめて弁護士に任せるのがオススメです。

本人死亡の場合のB型肝炎給付金請求

1. 本人死亡後のB型肝炎給付金請求

ご家族がB型肝炎で死亡された後に、B型肝炎給付金のことを知ったという方もいらっしゃると思います。「もう本人も亡くなってるし、いまさら給付金なんて請求するのは無理だろう。」と諦めてしまっていないでしょうか?ご家族を喪った悲しみが癒えず、詳しく調べる気力が湧かないということもあるかもしれません。

しかし、相続人からでもB型肝炎給付金を請求することができます

給付金の対象になっているということは、ご本人が生前に病気で苦しまれて、しかも、その苦しみが国の怠慢が原因だったということです。「かたきをとる」という言葉は不適切かもしれませんが、給付金の支給には謝罪の意味合いもあります。国に責任があるならばそれを追及することが、故人への弔いにもなるのではないかと思います。

ご本人の死亡後に時間が経てば、それだけ証拠書類を集めるのも難しくなっていきますので、手続きは早めに始めるに越したことはありません。

2. 本人死亡後に請求できるB型肝炎給付金額

ご本人死亡後の請求できるB型肝炎給付金の金額がいくらくらいになるのかを見ていきましょう。

    病態ごとの給付金額の一覧

病態発症後20年の経過給付金額
死亡、肝がん、重度肝硬変
経過前
3600万円
死亡、肝がん、重度肝硬変
経過後
900万円
軽度肝硬変経過前2500万円
軽度肝硬変経過後、治療中
600万円
軽度肝硬変経過後、治癒済み
300万円
慢性肝炎経過前
1250万円
慢性肝炎経過後、治療中300万円
慢性肝炎経過後、治癒済み150万円
無症候性キャリア経過前
600万円
無症候性キャリア経過後
50万円

 ※ 無症候性キャリアとは、感染したけれど発症していない人のことです。
 ※「除斥期間20年」とは、その病態が発症してから20年経過の前後を意味します。
 ※ 無症候性キャリアの場合は感染時から20年経過の前後となります。

まず前提として、幼少期の集団予防接種によってB型肝炎ウイルスに感染した人か、その人から母子感染または父子感染した人が対象になります。

その上で、B型肝炎の病態によって給付金の金額が決まっています。
死亡の給付金は3600万円
です。ただし、これはB型肝炎による肝疾患で亡くなった場合です。肝疾患以外の原因で亡くなられた場合は、生前に発症していた病態により金額が異なります。本人が死亡しているのだから、B型肝炎が原因だろうと思われるかもしれませんが、例えば、B型肝炎ではあったけれど、直接の死因は交通事故だったというような場合がこのケースにあたります。例えば、軽度肝硬変(経過前)の人が交通事故で死亡した場合、請求できる給付金は2500万円になります。

3. 誰が相続人になのか

ご本人死亡後のB型肝炎訴訟では、相続人から給付金を請求できます。
では、ご遺族の中で相続人となるのはどなたなのでしょうか?

まず、死亡した方が結婚されていた場合、配偶者は相続人になります。配偶者というのは夫や妻のことです。ただし、死亡する前に離婚していた場合は配偶者ではなくなっているので、相続人にはなりません。

次に、死亡した方に子がいた場合、子は全員が相続人になります。孫は相続人にはなりませんが、先に死亡した子がいればその子の子である孫全員が代わりに相続人になります。相続人となる孫が先に死亡していれば、その孫の子であるひ孫が……という形で子孫がいる限り続きます。

つまり、最も一般的な家庭では、配偶者と子の全員が相続人になるということです。この場合は、死亡した方の親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。

死亡した方に子や孫が全くいないか先に全員死亡している場合は、死亡した方の両親が相続人となります。親が先に死亡している場合は、その親の親、つまり死亡した方の祖父母が相続人になります。こちらも先祖代々まで誰か生きている人がいればさかのぼります。

子や孫も、親や祖父母も誰もいない場合は、死亡した方の兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹の中に先に死亡した方がいて、その方に子がいる場合はその子、つまり甥っ子か姪っ子が相続人になります。ただし、甥っ子か姪っ子が先に死亡していて子がいても、その子は相続人にはなりません。甥っ子姪っ子までです。

まとめると、①子孫、②先祖、③兄弟姉妹か甥っ子姪っ子、の順で順位の高いグループに1人でも相続人がいれば、後の順位のグループは相続人にならないということです。
そして、どの順位のグループの人が相続人になっていても、配偶者は常に相続人になります。

上記の原則どおりにいかないものとして、相続放棄や相続人の廃除、相続欠格があった場合や、養子がいた場合、隠し子が認知された場合などがあり、そういった場合、相続関係が複雑になります。また、遺言書があったり遺産分割をしたりすると、相続財産の取り分が変わってきます。
そういう場合は、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。

4. 一般的な相続の話

B型肝炎給付金の特殊な部分を説明するために、まず前提として一般的な相続について説明します。この記事では遺言書はないものとします。

はじめに言葉の整理をしておきます。
相続の話をする際、法律用語では亡くなられた人を「被相続人」と呼びます。ただ、これだと少しわかりにくいと思いますので、ここでは「故人」と呼ぶことにします。
故人の持っていた財産や権利のことを「相続財産」といいます。そして、相続財産をもらう権利があると法律で定められている人のことを「法定相続人」といいます。こちらもここではわかりやすく単に「相続人」と呼ぶことにします。

一般的なの相続手続きでは、故人がお金を受け取る権利を持っていた場合、難しく言うと相続財産に金銭債権が含まれていたときには、遺産分割をするまで権利を行使できずお金を受け取れないか、それぞれの相続人が自分の相続分の割合にあたる金額のみ受け取れるかのどちらかです。

例えば、故人の銀行預金は、遺産分割をするまで相続人の誰かが勝手にお金をおろすことはできません。そのため、遺族の方がお葬式の費用をどうするか困ることがあります。
銀行の預金口座からお金をおろすには、まずは遺産分割協議書という書面を作る必要があります。相続人全員で遺産分割の協議をして、どの相続人がいくらもらうということを決め、それを遺産分割協議書という書面にします。そこまでして作った書類を相続人全員分の印鑑証明書と一緒に銀行に持っていくと、やっとお金をおろすことができます。
つまり、相続人全員の同意がなければ銀行預金をおろすという権利を行使できないということです。

銀行預金以外の一般的な金銭債権、例えば故人が誰かにお金を貸していて返してもらう権利や、交通事故にあって損害賠償や慰謝料を請求する権利については、各相続人がそれぞれ自分の相続分の金額についてのみ請求し、お金を受けとることができます。
相続人が2人で、相続分が半分ずつなら、半分については相続人1人が単独で行使できるということです。残りの半分は、他の相続人のものなので手出しできません。

整理すると、以下のどちらかのパターンでしか請求できないということです。

  • 相続人全員で全額を請求する
  • 相続人1人で自分の分だけを請求する

これが、一般的な相続での、相続財産に金銭債権があったときの取扱いです。

5. 相続人からのB型肝炎給付金請求

故人がB型肝炎給付金の対象となっていて請求しないまま亡くなられたときは、相続人から請求することができます。一般的な相続とは異なり、B型肝炎給付金は相続人のうち1人が全額を請求することができます。B型肝炎給付金の手続きは、国を相手に訴訟を起こす必要がありますが、このときに原告になるのも1人だけでいいということです。訴訟で和解した後に給付金を請求するときも1人で請求できます。

なぜB型肝炎給付金は一般的な相続とは違うのかというと、「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」という法律で特別に定められているからです。この法律は、B型肝炎給付金をもらえる条件や金額、細かい手続きなどを定めています。名前が長いので、この記事では「B型肝炎特措法」と呼ぶことにします。

相続人からB型肝炎給付金を請求するときのことは、B型肝炎特措法の第3条に規定されています。

特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法

第3条(特定B型肝炎ウイルス感染者給付金の支給)

社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という。)は、特定B型肝炎ウイルス感染者(特定B型肝炎ウイルス感染者がこの法律の施行前に死亡している場合にあっては、その相続人)に対し、その者の請求に基づき、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金を支給する。ただし、当該特定B型肝炎ウイルス感染者について既に特定B型肝炎ウイルス感染者給付金が支給されている場合は、この限りでない。


第二項 特定B型肝炎ウイルス感染者給付金の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その者がその死亡前に特定B型肝炎ウイルス感染者給付金の支給の請求をしていなかったときは、その者の相続人は、自己の名で、その者の特定B型肝炎ウイルス感染者給付金の支給を請求することができる。


第三項 特定B型肝炎ウイルス感染者給付金の支給を受けることができる同順位の相続人が二人以上あるときは、その一人がした請求は、その全額について全員のためにしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。

第一項と第二項は、相続人からB型肝炎給付金を請求して受け取ることができるということを定めています。
そして第三項が、相続人のうち1人から全額分の請求ができる根拠となります。1人からの請求であっても他の相続人全員のために請求しているとみなされるので、全額請求できるのです。

故人が生前にB型肝炎給付金を受け取っていて、病態が進行して死亡した場合にも、相続人1人から追加給付金を全額請求することができます。

特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法

第8条(追加給付金の支給)

支払基金は、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金の支給を受けた特定B型肝炎ウイルス感染者であって、B型肝炎ウイルスに起因して新たに第6条第一項第一号、第三号又は第六号のいずれかに該当するに至ったものに対し、その者の請求に基づき、追加給付金を支給する。


第二項 第3条第二項及び第三項の規定は、追加給付金の支給について準用する。

この第二項で、先程の第3条の第二項と第三項を準用しています。準用というのは、別の規定をこっちにも当てはめますよ、という意味です。
したがって、追加給付金を請求する場合でも同様に1人の相続人から全額の請求をすることができることになります。

6. B型肝炎給付金受給後の分配

B型肝炎特措法によって相続人の1人から全額請求ができますが、受け取った給付金は請求した相続人が全額もらってもいいのでしょうか?

さきほど見たB型肝炎特措法第3条第三項では、「その一人がした請求は、その全額について全員のためにしたものとみなし」と言っています。自分のためではなく、全員のためにした請求なので、1人で請求したからと言って全額もらってはダメだということになるでしょう。

また、その後に「その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。」とも言っているので、国としては1人に支払ったら全員に対して支払ったことになりますので、万が一、他の相続人が請求してきても「もう払ったから」と言って拒否できます。そうでなければ国が支払う給付金の額が増えることになるので、これは当然のことです。

相続人のうち1人が受け取った給付金を他の相続人にどう分配するのかなどについては、B型肝炎特措法では定められていません。したがって、そこからは一般的な相続と同じように相続分に応じて分配するか、遺産分割協議をして取り分を決めるかすることになるでしょう。

後でもめないためには、B型肝炎給付金を請求する前に相続人全員で話しあい、他の遺族の意見も聞いて分配などについて取り決めておくことをお勧めします。

7. まとめ

ご家族が亡くなられた後に、その方のことについて訴訟を起こすのは気が引けるという考え方もあります。日本人らしい感覚で、おくゆかしい美徳だと思います。
ただ、B型肝炎訴訟は訴訟とはいっても実際は争いごとではなく、給付金を請求するために裁判所の手続きを利用するという形式的なものです。
故人が受け取るはずだったものをご遺族が受け取ることは何ら不思議なことではありません。

相続の手続きだけでも大変なのにB型肝炎訴訟まではやってられないという方は、まとめて弁護士に任せてしまうことをおすすめします。弁護士ならどちらについても専門家ですので、問題を整理して効率よく解決してくれるはずです。B型肝炎訴訟については医学的な知識も必要になるので、B型肝炎訴訟を取り扱っている弁護士に相談すれば、相続も含めて依頼できる可能性が高いです。

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