B型肝炎給付金もらえないのはどんな人?

B型肝炎給付金がもらえる条件はインターネット上にも情報が溢れています。
そういった情報を眺めて、「明確に対象外とも言い切れないが、条件に当てはまっているか微妙」「もっとわかりやすい判断基準がほしい」と思っている方に向けて、判断材料の幅を広げる情報を提供します。

普通とは真逆の視点で、B型肝炎給付金をもらえないケースについて解説していきます。

B型肝炎給付金もらえない人

1. 基本の考え方

B型肝炎給付金がもらえるかもらえないかを判断する上で、一番重要で念頭においておく必要があるのは、全員がグレーゾーンであるという事実です。

B型肝炎給付金は幼少期の集団予防接種で感染した人が対象になります。今現在、B型肝炎に感染していることは血液検査などで明確にわかりますが、幼少期の集団予防接種が原因で感染したことを証明する証拠を得ることはできないため、集団予防接種が原因で感染したと断定できる人は誰もいません。
集団予防接種に限らず、そもそもB型肝炎がいつどこで感染したのか100%証明する証拠を得るのは条件によっては不可能ではありませんが、かなり難しい話です。
全員がグレーゾーンとはそういう意味です。

給付金の制度では、直接的な証拠がない中で、グレーゾーンな人達を切り分けて白か黒かを決める必要があります。集団予防接種でB型肝炎に感染した証拠を得ることは不可能なため、集団予防接種以外でB型肝炎に感染する可能性が高そうな条件をいくつか決めて、それに当てはまっていれば対象外とする方法をとっています。
それらの条件は、最初にB型肝炎訴訟を起こした人達が国と和解したときに定められ、基本合意書という形でまとめられています。

そうは言っても、それらの条件はB型肝炎に感染する可能性が高いだけであって、実際にそれが原因でB型肝炎に感染したかどうか簡単には判断がつかないことが多いです。一見して無理そうに思える状況であっても、専門家から見れば給付金をもらえると考えられるケースも少なくありません。
自己判断で諦めてしまうと、本当はもらえるはずだった給付金をもらえないという一番残念な結果になってしまいます。最終的な判断をくだす前に、専門家である弁護士にご相談ください。

2. 給付金対象でない母親からの母子感染

B型肝炎給付金の対象には、一次感染者と二次感染者があります。
一次感染者とは、幼少期の集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染した人のことです。
二次感染者とは、一次感染者から感染した人のことです。

二次感染者は集団予防接種によって感染したわけではありませんが、一次感染者が感染していなければ感染することはなかったはずなので、間接的に集団予防接種が原因の感染と考えられ、一次感染者と同様に給付金をもらえます。
B型肝炎給付金がもらえるかどうかを考えるときは、自分が一次感染者と二次感染者のどちらに該当するかを整理して考える必要があります。

元々B型肝炎ウイルスの感染原因で最も多かったのは、生まれるときに母親から感染する母子感染です。もし母子感染であれば、一次感染者としてB型肝炎給付金の対象になる可能性は消えます。
しかし、まだ二次感染者としての可能性は残っています。母親が一次感染者なら、二次感染者として給付金対象になるからです。
逆に言うと、母親が給付金の対象ではなくて、その母親から母子感染したのであれば、B型肝炎給付金はもらえないことになります。

ただ、ここでひとつ見落としがちなことがあります。それは、「本当に母子感染ですか?」ということです。

医師が「母子感染でしょう」と言ったのが、診断ではなくて雑談で一般論を話したに過ぎないというケースがあります。初めてB型肝炎のキャリア、つまり持続感染だとわかったときの患者さんへの説明として、「一般的な感染源は母子感染なので、おそらく母子感染でしょう」という話をしたのが、説明不足だったり断片的に覚えていたりして、「お医者さんから母子感染と言われた」という記憶になっているのはよくあることです。

本当に母子感染なのかどうかを判断しようとするなら、母親の血液検査を行なったり問診したり、ということが必要になります。しかし、そこまでするケースはあまりないと思います。
それは誤診とか怠慢とかいうわけではなく、医師の仕事は目の前の患者の病気を治して健康を維持することなので、感染原因の特定は医学的にあまり重要ではないということです。

また、母子感染かどうかの判断基準も、医学的疫学的な考え方とB型肝炎給付金における判断基準は違います。医学的な知識をもった弁護士が法律的に判断しなければなりません。そのため、医師の言葉のみで母子感染かどうかを判断してしまうのは危険です。

3. 給付金対象でない父親からの父子感染

B型肝炎給付金の対象ではない父親からの父子感染が証明された場合にも、B型肝炎給付金はもらえなくなります。

「証明」された場合と書いたように、父子感染についてははっきり父子感染であるという証拠が出ないかぎり父子感染とはみなされません。母子感染と比べて感染する確率がかなり低いためです。

父親が一次感染者としてB型肝炎給付金の対象である場合は、父子感染を証明することで二次感染者としてB型肝炎給付金をもらう道があります。

4. 生年月日対象外

B型肝炎給付金が支給される理由は、国が集団予防接種の管理を怠ったからです。そのため、管理を怠っていた期間に集団予防接種を受けていない人は対象になりません。

国に責任があるとされている期間は、1948年(昭和23年)7月1日から1988年(昭和63年)1月27日です。
給付金の対象となるには、幼少期に集団予防接種を受けている必要があります。この「幼少期」は、「満7歳の誕生日の前日まで」と定められています。
そのため、国に責任がある期間に7歳未満ではなかった人は対象外となります。具体的には、生年月日が1941年(昭和16年)7月2日から1988年(昭和63年)1月27日に当てはまらない人は、一次感染者として給付金対象になることはありません。
ただし、1988年(昭和63年)1月28日以降の生まれの人には、二次感染者の可能性があることにはなります。しかし、昭和61年以降は出産時に母子感染防止の処置がされるようになっているため、かなりのレアケースになります。

1941年(昭和16年)7月1日以前の生まれの人は、一次感染者にも二次感染者にもならないので、B型肝炎給付金はもらえません。

5. 一過性感染

B型肝炎給付金がもらえるのは、B型肝炎ウイルスに持続感染している人です。
持続感染というのは、幼少期にB型肝炎ウイルスに感染することでウイルスがずっと身体のなかに残ってしまう状態をいいます。肝炎発症のリスクが将来的についてまわるので、それだけ大きな被害を受けていることになり、その損害賠償として給付金が支払われます。
そのため、一過性の感染の場合はB型肝炎給付金はもらえないことになります。

大人になってから感染した場合は、通常は一過性感染になります。
一部のB型肝炎ウイルスは大人への感染でも持続感染を引き起こすことがありますが、その感染ルートは主に性的接触です。いずれにせよ、「幼少期の集団予防接種による感染」ではないので、B型肝炎給付金はもらえません。

間違えないでほしいのは、あくまでも「感染」した時期の話であり、「発症」の時期とは関係ないということです。大人になってから肝炎を「発症」した場合でも、持続感染の可能性はあります。幼少期の集団予防接種によって持続感染していても、自分では感染に気づいていないことがあるからです。

ただし、一過性感染か持続感染かという基準も医学的なものではなく、法律に定められた基準で検査結果の数値を読み解いて判断しなければならないため、医師の診断だけでB型肝炎給付金はもらえないと判断することはできません。

6. 成人後の持続感染

平成8年以降に持続感染が判明した場合は、感染しているB型肝炎ウイルスがジェノタイプAeという種類ではないことを証明しないとB型肝炎給付金はもらえません。
前章で、一部のB型肝炎ウイルスは大人になってからでも持続感染を引き起こすと述べましたが、その種類のB型肝炎ウイルスがジェノタイプAeです。
ジェノタイプという言葉は聞きなれない言葉かと思いますが、B型肝炎ウイルスにもいくつか種類があって、その種類の違いをジェノタイプAとかジェノタイプBとかの呼び名で区別しているだけです。犬の種類に柴犬もいればトイプードルもいるのと同じようなものだと考えていただければと思います。

日本には元々、ジェノタイプBとジェノタイプCのB型肝炎ウイルスしか確認されていませんでした。そしてこれらは幼少期に感染しない限り持続感染することはないとされています。
しかし、国際化が進んだためか平成8年以降には日本国内でジェノタイプAeのB型肝炎ウイルス感染例がみられるようになりました。つまり、平成8年以降は成人後の感染でも持続感染している可能性があるということです。

そのため、平成8年以降にB型肝炎ウイルスの持続感染が判明した場合は、成人後の感染ではないかという疑いをもたれるのです。実際には平成7年以前に持続感染していても判明したのが平成8年以降であれば、いつ感染したか分からないので同様に成人後の感染の可能性を疑われます。この疑いを晴らすためには、感染しているB型肝炎ウイルスのジェノタイプを検査してジェノタイプAeではないことを証明しなければなりません。

7. 集団予防接種以外の感染原因

集団予防接種以外でB型肝炎ウイルスに感染した可能性が高いと考えられる場合には、B型肝炎給付金はもらえません。

カルテや入院時の医療記録に、輸血などのB型肝炎ウイルス感染リスクのある事柄が記載されていると、B型肝炎給付金をもらえない可能性が高くなります。特に7歳未満で輸血を受けていたりすると、より難しい状況といえるでしょう。

しかし、医療記録には様々なことが記載されているので、「いつ・どういう理由で・どういう処置をしたか」を総合的に判断する必要があります。例えば輸血前にB型肝炎ウイルスの検査をしていれば、その検査結果によっては輸血による感染の可能性は低いと考えられるケースもあるでしょう。

また、輸血をしたと思っていても医療記録を見ると実際には輸血していないこともあります。病院では輸血の可能性のある状況になると、親や家族に輸血の承諾書を書いてもらうことがありますが、結果的には輸血をせずに済むことも多いのです。大出血するかもしれないから念の為に承諾書をもらったということです。こういったケースで病院から「やっぱり輸血はしませんでした」というような説明をわざわざすることはないので、家族としては輸血をしたと思い込んでいます。

両親から「小さい頃に輸血をした」と聞かされて育った人でも、本当は輸血していないケースもあるので、医療記録を確認せずにB型肝炎給付金をもらえないと決めつけないようご注意ください。

8. 基本合意書では想定されていないケースについて

基本の考え方」でも述べたように、B型肝炎給付金の対象になるかどうかの条件は基本合意書という書面に定められています。そして、基本合意書ではその条件に当てはまるかどうかの判断基準として、どういう書類にどういう記載があればいいかを細かく決めています。

しかし、世の中は広くいろいろな事情の人がいるので、判断基準と決められた書類は出せなくても給付金対象となる条件は満たしていると考えられる状況もあります。そういったケースで給付金をもらうためには、基本合意書の判断基準を外れたところで証拠書類を提出し、主張立証することになります。

こういうケースでは医学的知⾒を踏まえた個別判断となるのですが、前例のない判断になることも多く、訴訟が難航して最後まで給付金をもらえるかどうか分からない状況になります。

9. 基本合意書で想定されていないケース① ~母子感染否定~

一次感染者が母子感染ではないことを証明するには、基本合意書で決められた検査記録を証拠として提出する必要があります。このとき、決められたとおりの検査記録が揃わないケースがあります。

(1)死亡した母親の生前の検査記録がない

母親が既に死亡していると、新たに検査することが出来なくなるので生前にB型肝炎ウイルスの検査をした記録を探すことになります。この場合、B型肝炎ウイルスに感染していないという検査記録が見つからないと、基本合意書から外れたところで主張立証していくことになります。
医療記録上、B型肝炎ウイルスの感染が考えられる記載がなければ、母子感染否定が認定される可能性はあるようですが、認定されるかは個別事情によって判断されるため、主張立証の難易度は非常に高くなります。

(2)母および兄姉死亡で生前の検査記録がない

母親が死亡している場合、年長のきょうだいがいれば母親の検査記録の代わりに提出することで、母子感染否定が認定されることがあります。これは、先に生まれた子供ほど母子感染する確立が高いとされているためです。先に生まれた子供が母子感染していないなら、後に生まれた子供が母子感染することはないだろうという理屈です。

母親も年長きょうだいも死亡している場合は、どちらかの生前の検査記録を探すことになりますが、年長きょうだいの方が母親よりも死後の経過期間が短いことが多いため、記録も見つかり易くなります。それでも検査記録がないときには、母親の場合と同様に医療記録から個別事情によって判断されることになり、難易度は高くなります。

10. 基本合意書で想定されていないケース② ~集団予防接種での注射器連続使用~

集団予防接種における注射器の連続使用が感染原因ではない可能性があるケースです。

(1)戦中戦後の沖縄

1951年(昭和26年)6月30日以前に沖縄で予防接種を受けた場合は、当時の沖縄が戦中戦後の混乱期にあって日本の統治下になかった時期もあり、集団予防接種の制度があったかどうかや予防接種の実態についてよく分からないことが多く、そういったことを調査して証拠を出さなければなりません。
この調査が難しいケースもありますが、給付金を受け取っている事例もあります。

(2)母子感染防止事業開始後の二次感染

通常、母親が一次感染者として給付金をもらえれば、母親から二次感染した子供も給付金をもらえるはずです。
ただし、日本では1986年(昭和61年)から出産時の母子感染防止事業が開始され、ほとんどの母子感染を予防できるようになりました。そのため基本合意書では二次感染者として認定するのは1985年(昭和60年)12月31日以前に生まれた人までとされています。
しかし、母子感染防止事業開始後も非常に低確率ですがワクチンの効果が薄い人などで母子感染は起こっています。そういったレアケースで二次感染してしまった人は、それが母子感染であることを個別に主張立証しなければなりません。

生まれた時期によっては出産当時の記録収集が難しく、請求困難となることもありますが、和解して給付金をもらえたケースも複数あります。三次感染者として給付金をもらった事例もあるようです。

11. 基本合意書で想定されていないケース③ ~本人の持続感染~

請求者本人がB型肝炎ウイルスに持続感染しているという証拠に疑いがあるケースです。

(1)手書きのカルテのみ

B型肝炎ウイルスへの感染を示す医療記録は、血液検査の結果を示す記録用紙の提出を求められます。この記録用紙が残ってなく、カルテに手書きで検査結果が書いてあるのみの場合は、その検査記録の信憑性が低いと判断されます。

(2)免疫抑制剤による再活性化

リウマチやステロイド、抗がん剤等の免疫抑制剤を使用したことによって元々体内にあったウイルスが再活性化した場合、再活性化する前に持続感染していたのか一過性感染しただけだったのかがはっきりしなくなります。そのため、再活性化前に持続感染していたというはっきりした記録がなければ、持続感染を証明するのが難しくなります。

明確な記録がない場合は難しい主張立証をしていくことになり、持続感染と認められないこともありますが、部分的な検査記録や手書きの記録などから主張立証することで和解に到り、給付金をもらえた事例もあります。

12. 基本合意書で想定されていないケース④ ~集団予防接種以外の感染原因~

基本合意書の「その他集団予防接種以外の感染原因がないこと」という条件に疑義があるケースです。

(1)成人後の持続感染の可能性を否定する証拠がない

平成8年以降にB型肝炎ウイルス感染が判明したケースで、本人が既に死亡しておりジェノタイプ検査結果もない場合、新たに検査をしてジェノタイプAeではないことを証明することができません。
この場合、通院歴・生活歴・精密検査の有無などから主張立証できる点を探していくことになります。給付金をもらえた事例はあるようですが、難易度は高いと言えます。

(2)幼少期の輸血歴

幼少期に輸血した記録があると、輸血によってB型肝炎ウイルスに感染したのではないということを主張立証する必要があります。この主張立証は基本合意書からは外れる部分ですが、難易度が高く請求困難と言えます。

13. まとめ

B型肝炎給付金をもらえないケースや請求が困難になるケースの代表的なものを見てきました。ご自身が対象になりそうかどうかを考える参考になれば幸いです。

ただ、専門知識がなくても明確に判断できるのは生年月日くらいで、その他は医学と法律の知識がなければ現在の状態を正しく理解することも難しいケースばかりです。

1章でも述べましたが、本当はもらえるのに自己判断で諦めてしまったとしたら、これほどもったいないことはありません。少しでも可能性がありそうな方は、一度弁護士に相談してみてください。B型肝炎給付金に詳しい弁護士に相談すれば、簡単な説明だけの情報でもそこから考えられる可能性を説明してくれます。

電話相談だけでも対応してくれる弁護士事務所もありますし、B型肝炎給付金の初回相談で報酬をとる弁護士はほとんどいないので、迷っている間に相談してしまった方が早いです。

B型肝訴訟について相談できる弁護士事務所一覧>>

B型肝訴訟について相談できる弁護士事務所一覧へ