B型肝炎への偏見に対応 訴訟するときのプライバシー
B型肝炎の患者の方やウイルスキャリアの方は、少なからず偏見や差別を経験したことがあるのではないでしょうか。
B型肝炎給付金に興味はあっても、訴訟などで自分がB型肝炎であることを周りの人に知られるのが怖い、という方もいらっしゃると思います。
給付金請求の手続きをすることで、本当にB型肝炎であると知られてしまうことがあるのでしょうか?
請求手続きの中で誰かに知られる可能性がありそうなところを取り上げながら、実際にどういったプライバシーリスクがあるのかを見ていきましょう。
1. B型肝炎への偏見・差別について
B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎は、感染経路がはっきりわからない時代が長かったこともあり、必要以上に感染を恐れられたり、感染者を隔離しようとされた時期がありました。
職場や学校での差別されたり、入院や出産時に隔離されたり、医療従事者からさえも心無い言葉を受けたという話もあります。
最近では、厚生労働省などが啓蒙活動を行なっていることもあってか、B型肝炎の正しい知識も少しずつ広まってきてはいるようですが、今なおそういった偏見は残っています。
B型肝炎給付金は、国の責任でB型肝炎ウイルスに感染してしまった人への損害賠償・見舞金という位置づけですが、その手続きによって周りの人から差別や偏見を受ける可能性が高まってしまうとすれば本末転倒です。そのため、B型肝炎給付金請求の手続きでは、プライバシーへの配慮も非常に重要と考えられます。
2. 弁護士事務所の対応
B型肝炎給付金の手続きは弁護士に依頼するのが一般的ですが、弁護士とやりとりしていることを周りに知られてしまうと「何かあるのではないか?」と勘繰られ、偏見をもたれる可能性があります。
しかし、弁護士というのは他人のプライバシーに触れる機会の多い職業なので、多くの弁護士事務所はプライバシーに配慮する対応を行なっています。
弁護士とやりとりしていることを知られる原因として、まず、弁護士と面談するために弁護士事務所へ出入りするところを見られないか?ということを心配されるかもしれませんが、B型肝炎給付金の手続きは電話のみでの相談を受け付けている事務所が多く、また依頼に関しても電話で対応してくれることが多いです。
次に、郵送で弁護士と書類をやりとりしていると隣近所に郵便物を覗かれて、弁護士と頻繁にやりとりしているのが噂になってしまわないか、といった不安もあると思います。
確かに、電話で弁護士に依頼したとしても契約書は郵送で取り交わすことになりますし、依頼後も証拠書類の収集など様々な書類のやりとりが必要になります。
この点も、多くの弁護士事務所では郵送でのやりとりの際に、弁護士事務所名の入った封筒ではなく普通の白封筒で差出人を個人名にして発送するといった対応を行なっています。こうすれば、友人などからの手紙と見分けがつかないため、郵送物から知られてしまうといった心配がなくなります。
同居している家族に給付金請求手続きのことを秘密にしておきたいという場合にも、この白封筒・個人名の郵送によって弁護士事務所に依頼していることを伏せておくことができます。B型肝炎給付金請求では母子感染の確認なども必要になるため、血縁者に秘密にはできない部分もありますが、配偶者のご両親と同居していて秘密にしたい場合などには効果的です。
そもそも、郵便局留めで郵送してもらうという方法もありますが、忙しくてなかなか郵便局に取りにいけないときや弁護士事務所からの電話をとれないときなど、すぐに書類を確認できずに、手続きが遅延してしまう原因になることもありますし、郵便局に知り合いがいる場合には、逆に怪しまれてしまうということもあります。
こういった対応のしかたは、弁護士事務所によって異なります。依頼しようと考えている弁護士事務所がどういった対応をしてくれるかは、弁護士に相談するときにご確認ください。
3. 訴訟での対応
B型肝炎給付金を請求するには、国を相手に訴訟の手続きをとらなければなりません。日本国憲法にも定められているとおり、日本の裁判は公開裁判を原則としているので、誰でも訴訟記録を見ることができます。民事訴訟法でも以下のように規定されています。
民事訴訟法第91条(訴訟記録の閲覧等)
何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。
これでは、いつ誰が訴訟記録を閲覧するかわからず、安心して訴訟手続きなどできないように思えます。
しかし、これにはちゃんと例外の規定が用意してあって、生活に支障が出るようなことに関しては、閲覧制限の申立てということをすれば、無関係な人からは閲覧できないようにしてもらうことができます。B型肝炎には差別や偏見があることは疑いようがないので、生活に支障が出るような秘密として認められます。
民事訴訟法第92条(秘密保護のための閲覧等の制限)
次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
B型肝炎給付金の請求に慣れている弁護士事務所では、訴訟を起こすと同時にこの閲覧制限の申立てを行なって、依頼者を差別や偏見から守るように働きかけてくれます。
気になる方は弁護士への相談時に確認して、確実に閲覧制限申立てをしてもらえるよう依頼しておくといいでしょう。
4. 医療機関・役所の対応
請求手続きの中で、B型肝炎給付金の対象者であるという証拠書類を集めなければなりません。この証拠収集の際に関わった人にB型肝炎であるということが知られてしまうことで、偏見をもたれる原因になるのではないかというのも気になるところです。
証拠書類には、まずカルテや検査結果などの医療記録があります。これらを病院に開示請求して出してもらうので、病院関係者には給付金請求をしようとしていることを知られてしまう可能性は高いです。ただ、病院では元々病気の記録を管理しているので、給付金請求をしなくてもB型肝炎であることは知られていたはずです。最近の病院は患者の個人情報に関する意識も高くなってきており、そもそも厳重に管理されているため、心配はないと言えるでしょう。
その他の証拠書類として、戸籍などの公文書があります。これは役所に請求して証明書などを取得することになりますが、戸籍関係の証明書を取得したからといってB型肝炎給付金請求をしているとは分からないでしょう。戸籍の用途は多種多様ですし、心配であれば使用目的を伏せて請求するか、相続関係の確認などの無難な理由をつけて請求しても問題はないと思います。また、役所も病院に負けず劣らず個人情報には厳しいところですので、心配はいらないと考えられます。
5. 血縁者に秘密の場合
実の両親やきょうだいにも、B型肝炎ウイルスに感染していることを秘密にしている場合は、給付金請求が難しい可能性があります。
B型肝炎給付金を請求するには母子感染の確認は避けて通れないので、母親か、母親が死亡している場合には年上のきょうだいの血液検査記録が必要になります。父親が健在であれば父子感染の確認で父親の血液検査記録も必要です。そういった血液検査などの協力が得られなければ、手続きを進められない可能性があります。
ただ、家族の中の誰の協力が必要かはケースバイケースなので、B型肝炎給付金に精通した弁護士であれば、状況に応じた対応策を提案してくれるかもしれません。
また、給付金請求は別としても、B型肝炎ウイルスは母子感染や家族内感染の可能性があるので、もし家族に感染していた場合には治療や更なる感染予防を考える必要があります。できることなら近しい家族には打ち明けて、家族全員が検査することをお勧めします。
6. まとめ
差別や偏見を受ける辛さは、当事者にしか分からないと言われます。B型肝炎患者の方の中には、本当に辛い想いをされた方がたくさんいらっしゃると思います。そうした経験から、B型肝炎給付金や訴訟といった手続きをとることに対して慎重になるお気持ちは察するに余りあります。
しかし、今回解説したようにB型肝炎給付金の手続きはプライバシーにもかなり配慮されており、給付金を請求したことが公表されるようなことはありません。
迷っている方は一度弁護士に相談してみてください。相談してみてやっぱりやめるということも出来ますし、弁護士には守秘義務があるので相談したことが誰かに漏れることはありません。誰にも相談できなくて苦しい想いを抱えてきた方も、弁護士になら安心して相談することができます。