B型肝炎の感染経路 どこから感染するのか?
B型肝炎の感染経路について解説します。
かつては多くの感染経路がありましたが、政策や医療環境の改善により、今ではほとんどの感染経路に対策がとられています。
しかし、新しいタイプのB型肝炎ウイルスが国内で増えつつあり、これまでにない形での感染の広がりも懸念されます。
[目次]
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- B型肝炎ウイルスの感染経路
(1)出産時の母子感染(2)幼少期の集団予防接種
(3)輸血
(4)針刺し事故
(5)医療器具などの消毒不足
(6)性交渉
- 世代別に見た感染経路
- まとめ
- B型肝炎ウイルスの感染経路
1. B型肝炎ウイルスの感染経路
(1)出産時の母子感染
B型肝炎ウイルスの感染経路は、かつては母子感染が最も大きな感染経路でした。しかし、昭和61年に母子感染防止事業が実施されるようになり、現在ではほとんど発生しなくなっています。
母子感染については、「妊娠時の検査でB型肝炎と判明 赤ちゃんへの影響は?」で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
(2)幼少期の集団予防接種
集団予防接種の際に注射器の連続使用が行なわれていたころ、幼少期に集団予防接種を受けたことでB型肝炎ウイルスに感染した人がいます。幼少期に感染するとB型肝炎ウイルスが一生身体の中に残ることになり、これを持続感染、またはキャリアといいます。
集団予防接種によって持続感染した人は、推定で40万人とも45万人とも言われています。
幼少期の集団予防接種による感染については、「B型肝炎の給付金について」で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
(3)輸血
第二次大戦後、日本で輸血がよく行なわれるようになりました。しかし、当時は輸血を受けた人の2人に1人は肝炎にかかっていたそうです。これは輸血後肝炎と呼ばれていました。
当時はまだB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが発見されたばかりで、検査する方法もなかったため、輸血用血液や血液製剤に含まれる肝炎ウイルスを発見できなかったのです。
また、輸血のための血液の集め方にも問題がありました。
当時は血液を提供する代わりに金銭などの謝礼が支払われる、売血という方法によって血液が集められていました。そうすると、困窮した人がお金のために血液を提供することもあり、健康状態がいいとはいえない人からの血液提供も多かったといいます。なかには、麻薬常習者からの血液提供もあり、麻薬を打つために注射器の使い回しをしていて肝炎ウイルスに感染している人からの血液提供も行われていたそうです。現在の基準で考えれば危険極まりない状況ですが、当時は血液の安全性を確認する方法がなかったため、そうした血液が輸血用製剤の原料に使われることで、肝炎ウイルスに汚染された血液製剤が出回り、輸血後肝炎を引き起こしたのです。
昭和39年に駐日アメリカ大使のライシャワー氏が暴漢に襲われて負傷し輸血を受けた際にも輸血後肝炎に感染しました。この事件をきっかけに売血が問題視されるようになり、輸血用血液は無償の献血によって賄われるようになっていきました。
その後、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの研究が進み、検査ができるようになったことで輸血による肝炎ウイルス感染は大幅に減少し、現在では皆無といえるようになっています。
輸血による肝炎ウイルス感染といえば、薬害C型肝炎が有名ですが、これは危険性が認識された後も汚染リスクのある血液製剤を製造していたことについて、国や製薬会社の責任が問われた事件です。危険性が認識される前はもっと多くの人が輸血によってB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染していたのです。
(4)針刺し事故
針刺し事故とは、医療機関で働く医師や看護師などが、医療行為の際に注射器や点滴の針を誤って自分の指などに刺してしまう事故のことをいいます。針に患者の血液が着いていると、それが身体に入ることによって患者からのウイルス感染が起こる危険があります。
血液を介して感染するウイルスはすべて対象になるので、患者がB型肝炎、C型肝炎、HIV、成人T細胞白血病、梅毒などのウイルスを保有していた場合に感染リスクがあります。
医療従事者は何らかの疾病や疾患をもった人の対応をするのが仕事なので、針刺し事故による感染は重大な問題です。しかし、現在では針刺し事故防止のためのマニュアルや環境整備も進んでおり、予防としてワクチン接種をすることなどで対策が進んでいます。
(5)医療器具などの消毒不足
注射器などの針を消毒して再利用していた時代には、消毒が不十分な場合に生き残ったウイルスが感染するというリスクがありました。B型肝炎ウイルスは消毒耐性が強く感染力も高いため、滅菌・消毒処理が不十分であった場合には感染の危険がありました。
しかし、現在ではディスポーザブル注射器という使い捨ての注射器が普及し、針の再利用自体がなくなったため、針の消毒不足による感染リスクはなくなっています。
また、鍼灸院での鍼治療でも使い捨てのディスポーザブル鍼を使用するところが多くなっています。ただ、こちらは注射器ほど完全に使い捨てが浸透しているわけではないため、鍼の材質などによっては消毒して再利用していることもあるようです。もし消毒が不十分であればB型肝炎ウイルスなどの感染リスクがあることになります。
タトゥーやボディピアスなどを入れるときの器具も、消毒不充分であればB型肝炎ウイルスの感染リスクがあります。病院並みの滅菌・消毒設備を備えているタトゥースタジオもあるようですが、医療機関ではないので設備や知識が充分ではないところもあるかもしれません。そういったところでは現在でもB型肝炎ウイルス感染のリスクが残っているといえます。
(6)性交渉
B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染するため、性感染症でもあります。衛生環境も整い、B型肝炎ウイルスの感染経路への対策が進んだ現在では、性交渉が最も大きな感染経路といえるかもしれません。
2. 世代別に見た感染経路
B型肝炎ウイルスの感染経路は、昭和60年代前半に大きく変わりました。
昭和61年から母子感染防止事業が開始され、昭和63年には集団予防接種で注射器を人ごとに取り換えるよう指導が徹底されました。これらの対応によって、感染経路の大半を防げるようになったと考えられます。
更に、この2つによって幼少期の感染がほぼなくなりました。幼少期の感染経路がなくなれば、持続感染のリスクもほとんどなくなったといえるため、大きな前進です。
世代で考えると、現在30歳を超えている世代は多くの感染経路にさらされていたことになり、30歳より下の世代は特別な事情がない限りはB型肝炎ウイルスに感染する機会はなくなっているということになります。
したがって、20代以下の若い世代にとってB型肝炎は性感染症としての側面が強くなってきています。そして、まるでそのことと呼応するかのように、従来は日本にはなかったタイプのB型肝炎ウイルスが国内で増加しているという指摘があります。それは、ジェノタイプAeという欧米に多かったタイプのB型肝炎ウイルスで、成人後の感染でも持続感染を起こす可能性のあるウイルスです。
性交渉による感染の広がりと成人後の持続感染によって、新たなB型肝炎ウイルスキャリアが生まれる環境が作られつつあります。
3. まとめ
B型肝炎ウイルスのこれまでの主な感染経路と現在の状況について解説してきました。
新たな持続感染のリスクも生まれつつありますが、過去の感染経路と違って自分で気をつけることによって防げるものとなってきています。
正しい知識を身につけて、感染の危険を遠ざけることがより一層重要になっているといえるでしょう。