母子感染でも請求できる? 二次感染者のB型肝炎給付金
母親がB型肝炎ウイルスに持続感染していた場合、出産時に子供へ感染する可能性があります。これを母子感染といいます。
B型肝炎給付金は集団予防接種によって感染した人を対象としているため、通常は母子感染ではないことが条件になります。しかし、母親がB型肝炎給付金の対象になっていれば、母子感染した子供も、二次感染者としてB型肝炎給付金の対象になります。
1. 母子感染とは
何らかのウイルスや細菌などが母親から赤ちゃんへ感染することを、母子感染といいます。
母子感染は大きく分けて、
- 妊娠中の子宮内感染
- 出産時の産道感染
- 出生後の産後感染
があります。
妊娠中の子宮内感染については、母親の血液と赤ちゃんの血液は胎盤によって分けられていて、胎盤はB型肝炎ウイルスを通さないため、母子感染のリスクはほとんどありません。
非常に低い確率ですが、胎盤に小さな傷ができたりして血液が少しだけ混ざってしまい、それで感染してしまうという可能性はあります。
出産時の産道感染は、生まれてくる赤ちゃんが狭い産道を通り抜けるときに細かい擦り傷ができるのですが、このときに母親の血液が赤ちゃんの体内に入ることで感染します。
B型肝炎ウイルスの母子感染リスクが一番大きいのは、この産道感染です。
しかしながら、昭和61年から母子感染防止措置がとられるようになり、母子感染リスクがある場合には出産直後に抗ウイルス剤やワクチンなどが投与されるようになっているため、今ではほとんど防げるようになっています。
出生後の産後感染は、母親と赤ちゃんとの親密な関係のなかで起こる感染のことで、主に母乳による感染をいいます。母乳は血液から作られていますが、血液そのものではないため、母子感染防止措置が行われていれば、基本的には問題ないとされています。ただし、乳首に傷があったりして出血の可能性があるときは、授乳を控えるように指導されています。
現在では妊婦検診でB型肝炎の検査をして、母子感染リスクがあれば防止措置がとられているので、B型肝炎の母子感染はほとんどなくなっていますが、母子感染防止措置が始まった昭和61年よりも前に生まれた人は、母親がB型肝炎に感染していれば高い確率で母子感染していると考えられます。
2. 母子感染がB型肝炎給付金の対象になるケース
B型肝炎給付金は、幼少期の集団予防接種が原因で感染した人に対して支給されますが、その対象には、一次感染者と二次感染者がいます。
一次感染者とは、集団予防接種を直接受けて感染した人のことです。
二次感染者とは、一次感染者から感染した人のことです。母子感染や父子感染があります。
一次感染者がB型肝炎給付金を受給するためには、下記の条件を満たし、証拠を提出する必要があります。
一次感染者であることを証明するための要件
① B型肝炎ウイルスに持続感染していること
② 満7歳になるまでに集団予防接種等を受けていること
③ 集団予防接種等における注射器の連続使用があったこと
④ ⺟⼦感染でないこと
⑤ その他集団予防接種等以外の感染原因がないこと
集団予防接種から直接に感染したことを証明するため、「母子感染でないこと」が条件に入っています。証拠として、母親がB型肝炎に感染していないことが確認できる血液検査記録などが必要になります。
二次感染者がB型肝炎給付金を受給する条件は、一次感染者からどう感染したかによりますが、一番典型的な例が母子感染ですので、⼀次感染者である⺟親から⺟⼦感染で感染した二次感染者で説明いたしますと、下記の条件を満たし、証拠を提出する必要があります。
二次感染者であることを証明するための要件
① 原告の⺟親が上記の⼀次感染者の要件をすべて満たすこと
② 原告がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
③ ⺟⼦感染であること
一次感染者と違ってこちらは「母子感染であること」が条件に入っています。母親が一次感染者であることを証明した上で、その母親から母子感染したことを証明することで、集団予防接種が原因で感染したといえるわけです。
3. 母子感染者の給付金請求に必要な証拠
母子感染した人が、二次感染者としてB型肝炎給付金を請求するために提出しなければならない証拠についてご説明します。
① 原告の⺟親が上記の⼀次感染者の要件をすべて満たすこと
母子感染者がB型肝炎給付金を請求するには、母親が一次感染者としてB型肝炎給付金の対象であることが前提となります。そのため、母親が一次感染者として給付金請求するための証拠が全て必要となります。
<必要となる資料>
・原告の⺟親が、⼀次感染者として認定される要件を全て満たしていることを証明する資料
(厚生労働省「B型肝炎訴訟の手引き」より抜粋)
② 原告がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
母子感染者自身が、B型肝炎ウイルスに持続感染しているという証拠が必要です。
母子感染したのであれば、当然に持続感染しているはずなので、それを確認できる血液検査記録を提出します。被害を受けた証明ともいえます。
<必要となる資料>
・原告本人がB型肝炎ウイルスに持続感染していること(確認方法は一次感染者と同様)を証明する資料
(厚生労働省「B型肝炎訴訟の手引き」より抜粋)
③ ⺟⼦感染であること
一次感染者である母親からの感染だということを、医学的に判断できる証拠が求められます。
生まれたときからかなり時間が経っていることが多いので、直接的な証拠がなくても状況証拠で認定してもらう方法も用意されています。
<必要となる資料>
以下の①または②の資料
① 原告が出⽣直後に既にB型肝炎ウイルスに持続感染していたことを⽰す資料
② 原告と⺟親のB型肝炎ウイルスの塩基配列を⽐較した⾎液検査(HBV分子系統解析検査)結果
※上記①⼜は②の⽅法以外に、⺟⼦感染とは異なる原因の存在が確認されないことを⽴証する⽅法も認められています。そのためには、以下の条件をすべて満たすことが必要です。
・原告の出⽣前に⺟親の感染⼒が弱かったこと(HBe抗原が陰性であったこと)が確認されないこと
・原告が昭和60年12⽉31⽇以前に出⽣していること
・医療記録等に⺟⼦感染とは異なる原因の存在をうかがわせる具体的な記載がないこと
・父親が持続感染者でないか、又は父親が持続感染者の場合であっても、原告と父親のB型肝炎ウイルスの塩基配列が同定されないこと
・原告のB型肝炎ウイルスがジェノタイプAeでないこと
(厚生労働省「B型肝炎訴訟の手引き」より抜粋)
上記、①か②のどちらかが用意できれば、直接的な証明ができます。②の塩基配列というのは、ウイルスのDNA鑑定のようなものです。
これらが出せない場合は、※に記載されている資料を揃えて、医学的知見に基づいて認定を受けることになります。
4. 手続きの流れ
二次感染者からのB型肝炎給付金請求の手続きは、一次感染者のケースと同様です。国に対して訴訟を起こし、証拠を提出して国からの和解案を待つことになります。
ただ、一次感染者に比べて証拠資料の数が多く、より専門的な判断が必要になります。
母親が一次感染者として認定されるか微妙な場合などは、母親自身の一次感染者としての給付金請求を先行させて様子を見ることもできます。
もし母親が認定されなかったら、二次感染者の給付金請求も認められないことになるので、検査費用などが無駄になってしまうのを避けるためです。その場合は、母親が認定されたら二次感染者の給付金請求も始めるというふうに、段階的に手続きを進めていきます。
母親の認定に不安がなければ、並行して手続きを進めた方が早く解決することになります。
5. まとめ
二次感染者からのB型肝炎給付金請求は、一次感染者と二次感染者の二人分の給付金を請求できることも多く、家族全体として受け取れる給付金額は大きくなる傾向にあります。その反面、証拠資料も多くなり、高額な検査が必要になることもあります。また、母子感染の証明が難しいときには、一次感染を主張するか二次感染を主張するかといった高度な判断が要求されることもあります。
判断を間違えれば、請求自体が困難になったり高額な検査費用が無駄になってしまったりすることもありえます。そういったリスクを最小限に抑えて手続きを進めるためにも、B型肝炎給付金の請求を得意としている弁護士に相談することをお勧めします。専門知識の豊富な弁護士であれば、主張の組み立てや検査の順番など、効率的で最もリスクの低い進め方でリードしてくれます。
もし、母子感染っぽいからといってB型肝炎給付金請求を自己判断で諦めたり迷ったりしているのであれば、まずは弁護士に相談して一歩を踏み出してみてください。